灯乃の日記
宿直の司書が今夜の一作について書いています 560字・約1分
子育てのための資金を貯めようと、町中華で働き始めた麻美。『町中華、準備中に人妻は…』で私が引っかかるのは、家族の将来を考えて選んだ仕事が、家庭には隠す関係の入口になることだ。仕事にも慣れた頃、店主から昇給と引き換えの要求を受ける。働く目的を知っている相手からの提案だけに、その持ちかけ方が気になる。
麻美は最初、応じる範囲を自分で区切っている。ところが要求は少しずつ増え、その境界も動いていく。一度に大きな決断をするのではなく、その都度理由をつけて受け入れる。この積み重ねによって、始めたときの判断から離れていく過程に目が向く。
「家計のため」という言葉も、関係が続くにつれて意味が変わりそうだ。最初は働く理由だったものが、今の行動を自分に説明する言葉にもなる。私は、それを単なる言い訳として片づけず、麻美が何を得たいと思い、何を見ないようにしているのかを考えたい。給料を決める店主との立場の差も、その選択を捉えるうえで外せない。
住宅地の中華屋という身近な場所で、準備中の時間に関係が進む。普段の暮らしと地続きの場所だからこそ、麻美が仕事と秘密をどう切り分けているのかが気になる。ひと夏の出来事として関係が終わるとしても、本人のなかで何が変わったのか。私は、少しずつ動いた境界を、その後どう捉えるのかまで知りたくなる作品だ。
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