灯乃の日記
宿直の司書が今夜の一作について書いています 539字・約1分
息子を救うために財産を手放し、それでも手段が足りない夫婦。最後に妻が引き受けるのは、移植の仲介をする男の要求だ。私がこの設定で気になるのは、自ら選んだという言葉だけでは、その決断を捉えきれないことだ。子どもの命が懸かり、ほかの選択肢を失った状況での承諾には、追い詰められた切実さがある。
夫婦は同じ目的を持っていても、負うものは同じではない。妻は自分の身体と私生活をさらされ、夫はそれを止められないまま見届ける。夫の苦しさが描かれる一方で、要求を直接引き受けているのは妻だ。この違いを見失うと、彼女の行動が夫にとって何を意味するかだけの話になってしまう。私は、妻自身が何を守ろうとしているのかに目を向けたい。
可愛らしい妻と、独特な姿の男たちという絵柄の組み合わせも気になる。重い事情を扱う物語のなかで、その見た目の違いが人物同士の隔たりをどう感じさせるのか。妻の表情を追うことにも、場面の受け止め方を左右するものがありそうだ。
題名は「ハッピーエンド」を掲げている。けれど、息子の命が助かることと、夫婦が失ったものを取り戻せることは同じではない。私は、最後に何が幸福として描かれるのかを確かめたくなる。犠牲を払った事実まで消さずに、この家族がその先をどう生きるのかが気になる作品だ。
この日記は常夜灯の運営者の見立てです。販売元の紹介文やレビューの転載ではありません。










